5G向け高周波FPC

1.はじめに

(1)背景

インターネットの普及に伴い、処理する情報量が増加しており、PCやスマートフォン等では、伝送速度の高速化が加速しています。
一方、我々を取り巻く課題として、労働人口不足による生産性向上や少量多品種対応が求められており、解決手段としてIoTや無線通信といったICT技術の導入が必要とされています。
これらの課題解決に資することが期待されているのが、第5世代移動通信システム(5G)でです。
5Gには「高速大容量」「高信頼・低遅延」「多数同時接続」の3つの特徴があり、この技術を確立する事により高精細映像の伝送や多数センサーを使った同時制御、リアルタイムでの遠隔制御が可能となり、医療や農業・自動運転など革新的な未来が期待できます(参考1)。 その技術確立にはインフラの整備と基板テクノロジーの進化が必要であり、中でも高周波FPCは、第5世代高速通信規格に適応する基板の開発に不可欠な技術と言えます。



(2)高周波用LCP-FPC

通信の際、伝送路となるFPCには伝送損失を抑える誘電特性の優れた材料が求められています。LCP(液晶ポリマー)は低吸水性、低誘電正接等の優れた特性を持っていることからメクテックでは汎用ポリイミドからLCPに切り替え、高周波FPCの開発を行いました。
以下にポリイミドとLCPの伝送損失の比較を示します。

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図1 汎用ポリイミドとLCP比較

次にポリイミド、LCPを用いたマイクロストリップライン構造での伝送損失測定結果について説明します。
LCP-FPCは汎用ポリイミドに比べ損失が小さく、吸湿による変化もほとんどないことが確認できます。

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図2 汎用ポリイミドとLCP 伝送損失比較


(3)LCP-FPCの多層化

次に、LCP-FPCの多層構造(以下Flexと呼称)について説明します。高周波FPCは複数の同軸ケーブルを一つにまとめ、高機能化を目指した製品であり、同軸ケーブル同様にグランド層で信号線を囲む多層構造(Flex)となっています。

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図3 LCP-FPC多層化の背景


(4)LCP一体構造と懸念

一方で、LCPの熱可塑性を利用した一体構造タイプはALL-LCPと呼ばれ、300℃以上の高温でLCPを軟化させ多層化構造を形成します。LCPの軟化を利用するため、断面写真(図4下左)のように軟化時に配線が動き、絶縁性や電気特性の安定性に懸念が生じる可能性がありました。
そこで、メクテックでは構造形成時の温度が比較的低く、LCPが溶融しない領域で加工できる、接着剤を用いた構造を検討しました。

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図4 ALL-LCP構造の懸念


(5)接着剤構造LCP-Flexの伝送損失

適用する接着剤は通常の接着剤に比べ低誘電損失化しており、この構造体からなるFlexはALL-LCPモデルと比較しても遜色ない伝送損失性を示すことを確認しています。

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図5 接着剤構造LCP-Flexの伝送損失データとサンプル構造


(6)LCP-Flexの課題

LCP-Flexは高周波FPCの特性を満たしており、すでに量産展開していましたが、汎用ポリイミドと比較して以下の3つの課題がありました。

  1. 折り曲げ性
  2. ポリイミドとの価格差
  3. 供給安定性(2023年4月時点では解消)

2.MPI-Flex


(1)概要

そこで、メクテックは汎用ポリイミドを改善したMPI(Modified Polyimide)と低誘電接着材を組み合わせ、新たに開発した構造を採用することで、LCP-Flex相当の優れた伝送特性を持ち、かつ耐折り曲げ性を改善したMPI-Flexを開発しました。



(2)開発ポイント

主に2つのポイントでMPI-Flexの開発検討を行いました。



a. 低吸水・低誘電特性ポリイミドの適用

低吸水・低誘電特性のMPIを適用し、伝送損失低減を図りました。

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図6 低吸水・低誘電特性ポリイミド


b. 低粗度銅箔の適用

LCPは銅箔との密着強度を担保するために銅箔粗化処理の粗度を粗めにする必要があり、これが伝送損失低減の足かせになっていました。密着強度が出やすいMPIを適用することで銅箔粗化処理の粗度を平滑にでき、伝送損失良化に寄与しています。

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図7 銅箔粗化処理粗さイメージ


(3)伝送損失

以上の構成からなる構造での伝送損失データを示します。
MPI-Flexの伝送損失は、LCP-Flexと比較して同等以上であることを確認しました。

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図8 MPI- FlexとLCP-Flexの伝送損失比較とサンプル構造


(4)吸湿時の伝送損失

MPIを適用する際の最大の懸念は吸湿時の伝送損失の低下ですが、85℃85%RH 72時間後においても、初期値に対する伝送損失の低下を最小限に抑制でき、LCP-Flexと同等の伝送損失レベルが維持できることを確認しています。

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図9 吸湿時の伝送損失データ


(5)特性

適用したMPI-FlexとLCP-Flexの特性を以下に示します。MPI-FLEXとLCP-Flexはフィルム起因の吸水性等を除き、ほぼ同等の特性を持つことを確認しました。

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図10 MPI-Flex特性データ


(6)各材料の利点・懸念点

下表にMPIとLCPの利点・懸念点を示します。
適用する製品と仕様に合わせて選定が可能です。

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図11 LCP、MPIの利点・懸念点

3.更なる改善


(1)繰り返し屈曲性の付与

近年、増加傾向にある折りたためるスマホ(Foldable phone)の必要な機能を満足させるためには、低伝送損失はもとより、繰り返し屈曲性を付与する必要があります。メクテックでは今まで蓄積した屈曲・耐折性のノウハウを基盤にして、Foldable phone用Flex材料を開発中です。



(2)超低伝送損失Flex

さらなる高機能化を目指すには、さらに低誘電特性の材料を適用するべく、候補としてPFAやPTFE等のフッ素材について開発に着手しています。ただし、現在、PFAS規制の動きもあり、代替フッ素材についても進める必要があり、併せて開発を行っています。


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図12 材料種と誘電特性

4.まとめ


高速・大容量伝送のニーズに対応するため、メクテックでは伝送特性に優れた低誘電材料を用いたFPCを開発、量産対応をしており、LCP、MPI共にお客様のニーズに合わせてどちらでも対応可能です。また、シミュレーションから設計、材料や構造提案、実装対応までトータルでのソリューションを提案しています。